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ジャン・ジル公演終了感謝!(花井哲郎)
古楽アンサンブル コントラポントによる南仏バロックの巨匠ジャン・ジルの演奏会は、あいにくの雨にもかかわらずお陰様でなかなかの盛況だった。知名度の決して高いとはいえない作曲家にもかかわらず、これだけのお客様に来ていただけたことは感謝に堪えない。

東京カテドラルは屋根の構造上、雨の音が聖堂内にかなり響いてしまう。静寂の中で聴いていただけなかったのは申し訳なかったが、そもそも閉鎖された近代的なコンサート・ホールで演奏された音楽ではないのだから、そういった環境音もある程度は許容していただけるかもしれない。むしろ、レクィエムの雰囲気にふさわしかったと言ってくださった方もあった。

実は演奏上の苦労もいろいろあった。




セルパンという楽器がコントラポントのオーケストラに加わるのは初めてだった。モダン・ピッチに調整されている楽器だったので、半音低い今回のバロック・ピッチに対応してもらうのに少々難儀した。

また、17世紀フランスの音楽は低音がチェロの音域を越えて、さらに低い音が出てくる。今回も最低音はチェロのC 線より全音下のシ・フラットの音。それも大事なところで何度も出てくる。

今回もバス・ド・ヴィオロンというひとまわり大きな低めの音域の楽器を使い、またチェロも調弦をすべて普通より全音低くして演奏した。運指もひとつずつずれるわけだ。

でも、演奏者達の努力のお陰で、バス・ド・ヴィオロン、セルパン、ファゴット、という組み合わせの、おそらく日本ではかつて響いたことがないだろうバロック低音が実現して、オケの音色に独特の風合いを加えてくれた。


楽器に関して言えば、フランス・バロックの弦楽器は、ヴァイオリンやヴィオラも現代とは違っていたらしい。

スコアにも dessus de violon, haute-contre de violon, taille de violon, quinte de violon など、様々なヴィオロンの名前が記されていて、いろいろな大きさのヴァイオリン属の楽器があったのだ。ちょっとだけ大きめのヴァイオリン、ひとまわり大きなヴィオラなど、きっと色彩豊かになるに違いない。

フランス・バロックのオケは一番上と一番下の声部にそれぞれオーボエとファゴットが加わり、外声部の演奏者数もずっと多くなるので、充実した内声の音色が大事なのではないかと思う。

最近フランスではそのような楽器を復元する試みも行われているので、コントラポントでもいつの日か本格的なフランス・バロック・オケが実現できればいいなあと夢は膨らむ。







ところでカテドラルは残響がとても長く、フランスのゴシック大聖堂を思わせる響きがある。

それだけに、編成が大きめだと緻密なアンサンブルをするために、奏者の並び方には工夫が必要だ。合唱や独唱とのバランスも難しい。

会場内の席によって聞こえ方もかなり違ってくるので、座った席によって印象はかなり変わってくることと思う。

それは仕方ないが、最善の響きを模索して当日の会場練習では何回も並び方を変えてみた。カテドラルではもう何度も演奏しているのに、演奏人数もそのたびに違うので、試行錯誤していかなくてはいけない。

しかし、それでもこの響きこそが、こういった祈りの音楽が鳴っていた空間の響きなのであり、まさに祈りの場である東京カテドラルは、多少の難点はあっても音楽表現そのものに決定的に重要な、代え難い、ありがたい会場なのである。


リハーサルが始まる時に演奏者に訊いてみたところ、ジャン・ジルを演奏した経験のある人は一人もいなかった。

私自身、十数年来自分の内であたためてきた音楽ではあるが、実際音にしたのは初めてだった。そしてリハーサルが進むにつれて、私にとってのこの音楽の価値は増す一方だった。

今まで取り上げてきたリュリやド・ラランドにも、またシャルパンティエにもない魅力がある。オケのメンバーから何度も「ジャン・ジル、いいですねえ」という声を聞いた。3大レクィエムのひとつにしたい、という人すらいた(他の2曲が誰のレクィエムかは知りませんが・・)。いつかまた、是非再演したいと考えている。

ジャン・ジル公演終了感謝!(花井哲郎)_c0067238_11313125.png
(アンコール後のステージの様子)



by fons_floris | 2014-06-10 11:30 | コントラポント
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