【古楽院】ルイ・クープランに魅せられて
古楽院で7月2日に開催する「関根敏子先生のフランス・バロック音楽の話」、テーマはルイ・クープランの「前奏曲」です。
この前奏曲の虜になり、花井哲郎のもとでチェンバロ演奏の研鑽を積んでいる、フォンス・フローリス事務局スタッフによるエッセイをお届けします。


c0067238_21354988.jpg 私がチェンバロを始めたのは、おそらく、ルイ・クープラン(1626-1661)に、それも前奏曲に取り憑かれてしまったことがきっかけと思います。それはちょうど花井哲郎先生がオランダで鍵盤奏者としても活躍されていた頃のことでした。その後帰国された花井先生におそるおそる弟子入りし、数ヶ月間メソード本で基本を習った後、最初に課された曲はルイ・クープランのイ短調の組曲でした。もちろん、冒頭は前奏曲です。これを弾きたくてチェンバロを始めた私は一気にのめりこみました。

*画像は 7月2日に演奏予定のニ短調の前奏曲の冒頭部分の楽譜写本です。





 ルイ・クープランの前奏曲は、プレリュード・ノン・ムジュレPrélude non mesuréといわれるもので、白丸の音符(全音符)だけで書かれ、文字通り「計量されない前奏曲」で、どのように演奏するかは弾き手の自由にまかされます。私はこれを弾き始めたら、時間を忘れてしまいます。時には何時間も弾き続けることもあります。そうしているうちにだんだん音楽が見えてきて、どんなリズムで弾きたいか、次々とアイディアが浮かんでくるのが楽しくてたまらない、私にとっては至福のときです。ところが、そうやって自分では「これでカンペキ!」と思えるほど悦に入った頃、壁が襲いかかってきます。修行の足りない者には実は越えられない壁があったことに気づかされるのです。結局そこを越えたくて、その後も修行を続けているようなものだと自分では思っています。

 これまで様々な国の様々な作曲家の曲を学んできましたが、その中でも私は特に17〜18世紀フランス・クラヴサン楽派に中心を据えたいと思っています。そして、そのクラヴサン楽派は「ルイ・クープランに始まり、ルイ・クープランに終わる」と私は個人的に思っています。一般的に言っても、17世紀クラヴサン楽派最高の作曲家はルイ・クープランでしょう。ジャン=アンリ・ダングルベール(1629-1691)もすばらしく魅力的。この二人の先駆けとしてのジャック・シャンピオン・ド・シャンボニエール(1602-1672)も外せません。そして、18世紀は何と言っても「大クープラン」ことフランソワ・クープラン(1668-1733)と、ジャン=フィリップ・ラモー(1683-1764)が二大作曲家と言えるでしょう。ですから、ルイ・クープランが「始まり」であることは、誰もが認めることと思います。しかし、私にとっては「終わり」でもあるのです。それは、ルイ・クープランの音楽は、あらゆることを習得して熟成させ、かつ、すべてが美しく浄化されて不純物が取り除かれ、何十年もかけて完成した極上のお酒のような、そんな音楽だからです。

 私は、ルイ・クープランから学び始めたものの、またここに戻ってくるための修行の旅に出たつもりで、これまで他の作曲家のものも学んできました。まだまだ修行途中で、それどころか険しい山の修験道で迷い、道を見失ってしまったように感じることすらあります。しかし、今年はルイ・クープランの没後350年。せっかくのメモリアルイヤーということもあり、私も一度中間決算のつもりで、今年はひさしぶりにルイに取り組んでいます。

 さて、このたび、7月2日(土)午後6時半から古楽院で開催される関根敏子先生による「フランス・バロックのお話」で、ルイ・クープランの、しかも前奏曲がテーマに取り上げられていると聞き、大変嬉しく思っています。また、花井哲郎先生によるルイ・クープランの前奏曲の演奏*は特にすばらしいのでお薦めです。ルイ・クープランの前奏曲は、グレゴリオ聖歌のネウマのようでもあり、また一方ではっきりとバロック音楽に特徴的な和声に支配されています。グレゴリオ聖歌から通奏低音まで精通しておられる先生だからこそ表現可能な世界です。

 音楽はまさに神の創造された秩序そのものであり、すでに宇宙にあるもの、それを私たちはもらうだけ、ということを、私たちはグレゴリオ聖歌からポリフォニー、そしてバロックへと脈々と続く歌を通しても、日々学んでいます。さらに私は、ルイ・クープランの前奏曲を演奏する時、「時」もその重要な要素であるということに強く気づかされます。どこでどれだけ時間を取るか、どれだけ沈黙するか、その沈黙にどんな意味があるか、それらも実はもうすでに宇宙にあるような気がします。

 私自身は大阪に住んでいて、特に土曜の夜にはどうしても東京には行けない事情があるので、伺えなくて大変残念なのですが、ぜひ多くの方に、この貴重な機会を逃していただきたくないと思っています。皆様、お誘い合わせの上、ぜひ足をお運びいただけたらと願っています。

井上 直子
(フォンス・フローリス関西事務局。チェンバロを花井哲郎に師事。)


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関根敏子先生の「フランス・バロック音楽の話」
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7月2日 午後6時30分 ルイ・クープラン「前奏曲」
受講料:3,500円
申込・問い合わせ:窪田 m-kubota@fonsfloris.com

花井哲郎によるチェンバロ演奏の他、お話の後には美味しいワインと手作りお菓子をお楽しみいただけます。皆様のご参加を心よりお待ち申しあげております。
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by fons_floris | 2011-06-22 22:00 | 古楽院
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