【カペラ】ルクセンブルグ公演
c0067238_16205645.jpg2007年10月カペラはルクセンブルクに招聘されて、ヴァルフェルダンジュの教会と、クレルボーの聖モーリス修道院にて公演を行ってきました。それは、在ルクセンブルク日本大使館からの突然の電話から始まりました。ベルギーで演奏をしたことがあるとはいえ、カペラの活動拠点は東京で、広く演奏旅行をするということはあまりありません。教会での典礼形式による地道な演奏会活動に力を入れているからです。一体どういういきさつなのか、結局現地で詳しく話を聞くまではっきりはわかりませんでしたが、カペラが録音したCDがひとつの媒体になったことは確かなようです。CD録音は今では活動の重要な一部になっていますが、当初はカペラの目指す音楽のあり方がCDによる鑑賞とは異質な部分が大きいので、抵抗はありました。しかしカペラの音楽を多くの方に知って頂くためにも、活動の広がりにも貴重な貢献をしてくれるので、今後も定期的に録音はしていくつもりです。そして今回思いも寄らないところからのお誘いを受けることになったわけです。

クレルボーの修道院といえば、私が慣れ親しんだソレム修道院の系列に属するベネディクト会の修道院で、修道士さんたちによるグレゴリオ聖歌の録音もあり、以前から一度は行ってみたいと思っていたところでした。まさにそこからの招聘ということで喜び勇んで出かけました。(写真:聖モーリス修道院)





c0067238_1625169.jpgもとより、ヨーロッパのキリスト教の音楽を500年前の姿で再現しながら、ルネサンス音楽の神髄に迫ろうという日本でのカペラの響きが、その大元の地で関心を持たれたということは、カペラ創立以来の取り組みが評価されたということなのでありましょう。しかし、演奏する場は現在もグレゴリオ聖歌を歌い続ける伝統的な修道院で、また10年来続いている聖歌のフェスティヴァルの一環として、ということで、カペラの生の演奏を聴いてルクセンブルクの人たちがどのように思うのか、心配なところはありました。(画像:グレゴリオ聖歌フェスティバルのカペラ公演ちらし)

1回目の公演はヴァルフェルダンジュという町の教会。まだ時差ぼけで調子が出ないままでの演奏でしたが、市長さんを始めとした聴衆の皆さんからは大変な好評を頂きました。そしていよいよ聖モーリス修道院での演奏です。Les journées du chant Grégorienという、修道院で毎年行われているフェスティヴァルの10周年記念、そしてその最終公演を任されたということでメンバーにもかなり気合いが入っていました。ロマネスク様式で作られた修道院の大聖堂は、立ち見が大勢出るほどの大盛況、修道院長、在ルクセンブルク日本大使ご夫妻、クレルボー市長を始め、フェスティヴァルでのグレゴリオ聖歌講習会の参加者や、近郊各地から集まった方々で一杯でした。何よりありがたい観客は、修道士さんたちです。聖堂内の、修道士が祈りのために座る場所のちょうど真ん中あたりで演奏したため、自分の席に座って鑑賞している彼らの間近で歌うことになりました。宗教音楽が専門とはいえ、いわゆる一般的なクラシック音楽の演奏団体であるので、これだけの聖職者の間で宗教音楽を演奏したことはありません。

c0067238_16222100.jpgグレゴリオ聖歌の他に、もちろんジョスカンのミサ曲やアヴェ・マリアなど得意のレパートリーもたくさん歌いました。日々祈りが行われている、神聖で素晴らしい音響の空間にカペラの歌手たちもいつも以上の影響を受け、まさに聖霊のお導きがあったかのような、かなりいい出来の演奏になったのではないかと思います。演奏終了後の鳴りやまぬ拍手、スタンディングオベーションに、日本からのお客が自分たちの音楽をお上手に歌いました、という以上の、力強い反応が感じられました。感想を聞いてみると、やはり皆大変感動してくださったようで、ミサ曲の精神的な響きに大の男が涙した、とさえ言ってくれた方もありました。オルガンも巧みに弾く修道院長が満面の笑顔で私に歩み寄り、あのサルヴェ・レジーナの旋律が、幾層にも重なっていく様はすごいですね、と嬉々と話しかけてきました。一番嬉しかったのは、二人の修道士が口を揃えて、10年間フェスティヴァルで様々な演奏を聴いてきたが、今回初めて、自分たちの祈りに近い演奏に出会えた、としみじみと語っていたことです。

c0067238_162348.jpgカペラは10年間、すべてにできる限りこだわりにこだわった活動を展開してきました。ルネサンスの宗教音楽の美しく豊かな音楽性を伝えるだけでなく、その理知的な構造を理解して頂くこと、そして何より祈りのために書かれたこれらの作品が持つ精神的、霊的な価値を演奏に反映させるということを、徹底的に追求してきました。その努力の甲斐があって、ルクセンブルクの修道院で日々祈る方々にも共感してもらえたということは、実に大きな励みです。
日本で宗教音楽を演奏する際、教会という場を演奏会場にお借りして、中世以来の伝統的な典礼の形を取っているとはいえ、実際に集まる聴衆の多くはキリスト教徒ではないし、またキリスト教徒のみを想定しているわけでもありません。この音楽が、様々な人々に受け入れられ、慰めとなり、超越した世界への窓を開いてくれるということが大切なのであり、そのようなことを実際の演奏、また啓蒙活動を通して体験してきています。それが本場の修道士の心にもふれることが出来たということで、カペラの音楽の方向性が間違っていなかったのだと確信するに至りました。今後とも活動を継続し、深化させ、クレルボー修道院大聖堂にあるような、荘厳でかつ心洗われる古来の祈りの空気を、大都市東京の喧噪の中にある人々にも、この音楽を通して伝えていきたいし、また機会があれば、欧州の人々ともこの偉大な音楽の素晴らしさを共有したいものです。(写真:聖モーリス修道院でのリハーサル風景)

この公演にあたっては、ルクセンブルクの文化省や実行委員会の方々のほかにも、EUジャパン・フェスト、そして何より在ルクセンブルク日本大使館に大変お世話になりました。大使公邸での昼食会にご招待頂いたり、ヴィアンデンにある美しい中世のお城への観光などにまでおつきあい頂いたり、まさに至れり尽くせりでした。感謝にたえません。演奏の内容も、この企画そのものも、カペラ10年間の一つの頂点であったと言っていいかと思います。ちょうどこちらも10周年の年にこのような演奏旅行ができたことを、ここまで育ててくださった日本の聴衆の皆様にも心から感謝し、ここにご報告申し上げる次第です。
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by fons_floris | 2009-07-01 00:00 | カペラ
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